2024.3.26

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【コラム】船荷証券の電子化で変わる貿易の未来③:直面する課題と各国の現在地

【コラム】船荷証券の電子化で変わる貿易の未来③:直面する課題と各国の現在地

※本コラムは連載となります。前回はこちら

 

第1回、第2回でご紹介したように、船荷証券(B/L)は国際貿易の歴史において、契約の証書、物品の受領書、権利書といった複数の役割を長きにわたって担ってきた重要な存在です。
そして船荷証券(B/L)は何世紀もの間、紙ベースでのやりとりが続き、その慣習はDXが叫ばれる現代であっても、海事法や貿易慣習に深く根ざしたまま残っています。

 

そして、紙でのやりとりによって生じる非効率、リスク、コストの問題を解決するために、船荷証券(B/L)の電子化が進められることになりました。

 

1990年代後半からは、紙の船荷証券(B/L)の機能を再現しつつ、さらなる利点を提供できる電子ソリューションの開発プロジェクトが多く見られるようになりました。
また、ブロックチェーンやクラウド技術を活用した最先端の電子船荷証券(eB/L)は、セキュリティの強化や運用コストの削減をもたらし、従来の紙ベースのやりとりと比べ大きな転換を実現できるものです。

 

しかし、こうした取り組みが進行しているにも関わらず、電子船荷証券(eB/L)の普及は未だ進まず、世界中で未だに紙ベースの船荷証券(B/L)が一般的に使用されています。

 

なぜこのようなことが起こっているのか。
今回はその理由を紐解くとともに、各国の法整備の状況についてもご紹介します。

 

■電子船荷証券(eB/L)への移行を阻む課題とソリューション

 

①法律の整備と規制上の問題
電子船荷証券(eB/L)が直面する大きな課題のひとつは法整備です。世界中のほとんどの国で、eB/Lを正式に定義し普及を促す法律が整備されておらず、既存の法律では往々にして紙ベースでのやりとりを優遇しています。
シンガポールやイギリス、バーレーンなど、電子船荷証券(eB/L)に対応するために法整備を進めた国もいくつかあるものの、国際スタンダードとなるにはまだまだ途上であると言わざるを得ません。

 

UNCITRAL(国際連合国際商取引法委員会)が定めるMLETR(電子的移転可能記録モ
デル法)では、既存の船荷証券(B/L)の規定を前提とし、それと同様の規定を電子船荷証券(eB/L)にも設けようとする考え方が示されており、電子船荷証券(eB/L)の世界的な標準化に向けた貴重な一歩です。
しかし、貿易業界の古い慣習を変えることができなければ、紙の船荷証券(B/L)を減らすことは難しいとも言われています。

 

例えば、電子船荷証券(eB/L)も従来の船荷証券(B/L)と同じように、銀行や保険会社といった第三の仲介機関に委託することで所有権に関する支払い責任の保証ができるようになりますが、銀行や保険会社といった第三者機関は、電子船荷証券(eB/L)と同時に紙の船荷証券(B/L)の提出を要求するため、電子船荷証券(eB/L)のみでは取引が完結せず、結局紙の船荷証券(B/L)を使用することになる、という問題が起こっています。

 

②世界標準化のための技術的な課題
電子船荷証券(eB/L)が世界に普及するためには、さまざまなシステムの統合や異なるプラットフォーム間の相互連携など、技術的な課題の解決が必要です。
電子船荷証券(eB/L)の発行、転送、保管のための多国共通のフォーマットやプロトコルを確立し、異なるシステム間・地域間の互換性を確保しなければなりません。

 

■各国の規制状況と市場動向

イギリスでは電子貿易文書法案(Electronic Trade Documents Bill)が議会を通過しました。これによってデジタル貿易文書が紙の文書と同等であると法的に認められ、国際契約や船荷証券に関して大きな影響力を持つ英国法のもと、電子船荷証券(eB/L)が広く活用されることが期待されています。

 

また、バーレーンやシンガポールといった国々も電子船荷証券(eB/L)の活用を促進するための法整備をいち早く進めてきました。

バーレーンはフィンテックやロジスティクス領域におけるブロックチェーンの活用に関する規定を含む「電子的移転可能な記録に関するモデル法」を制定した最初の国です。
シンガポールはこれに続き、電子取引法を改正してUNCITRALの電子的移転可能記録に関するモデル法を採用し、電子船荷証券(eB/L)の作成と紙の船荷証券(B/L)との法的同等性確保を後押ししています。
この他、スペインも電子船荷証券(eB/L)を含む電子貿易文書の利用を可能にする法律を採用しています。

関連する業界団体にもそれぞれ動きがみられます。
海上保険団体であるP&Iクラブは、CargoXをはじめ複数の電子船荷証券(eB/L)ソフトウェア・プラットフォームを正式承認し、業界内での受け入れと標準化を進めています。
国際航海協会であるBIMCOは特にバルク部門における電子船荷証券(eB/L)の採用を提唱しており、企業規模に関わらず先端デジタル技術にアクセスできるようにするための取り組みの必要性を強調しています。

 

そして2023年には、デジタル・コンテナ協会(DCSA)に加盟する世界の主要船社9社によって、2030年までに電子船荷証券(eB/L)を100%導入する方針が発表されました。
実現に向け、今後5年以内に船荷証券(B/L)の原本の50%をデジタル化するという中間目標も掲げています。

 

日本はというと、電子船荷証券(eB/L)の導入とそれに伴う規制を検討している段階にあり、2024年内にかけて電子船荷証券(eB/L)法に関する法案が国会に提出される見込みです。
日本の民法・商法における所有権および証券法など、既存の法的概念を維持しつつ、電子船荷証券(eB/L)を統合する形で法改正ができるかが主な焦点とされています。
そして、電子船荷証券(eB/L)の管理主体をどう策定するかにも注目が集まっています。

 

(④に続く)

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